一般社団法人日本リサーチ総合研究所
「総合研究 No.21 2002」 - 序言 -

 生活不安度指数を読む

理事長 長澤 哲夫


  当所が創立以来継続実施している消費者心理調査(Consumer Sentiment Index 略してCSI)の総合指標「生活不安度指数」が、一昨年秋から悪化し始め、昨年末には、調査開始以来最悪の数値(158)を記録した。このところ若干改善の兆しがみえるとはいえ、依然最悪のレベルを脱していない。調査を少し立ち入ってみると、向こう1年くらいの消費者自身の「収入見通し」や「失業不安」がいずれも過去最悪の水準にあることが背景要因となっている。現今のデフレ不況・リストラの進行が、消費マインドに悪影響を及ぼしていることが明らかである。

 いうまでもなく、消費者心理が不安な状態であれば、おのずから消費行動も家計防衛的になり、マクロの実態経済に対しては、GDPの6割を占める消費の低迷、貯蓄投資バランスの悪化というデフレ促進的な影響を与えるので、これだけ長期に消費者心理の悪い状態が続けば、消費者心理と実態経済との間に、デフレ的悪循環が生じていると考えられる。このことを当然感じとる企業マインドも同時に悪化していて投資活動も振るわないというのが実態である。世上の論議は、専ら金融機関の不良債権処理と金融不安の再燃に焦点があるが、今後の日本経済の再生を考えるとき、消費マインドや企業マインドと実態経済の間の悪循環の方が、より根本的問題ではないかと思われる。

 しかし、根本的であるだけに、この悪循環を一気に断つ政策的な奇手、妙手はありようがない。1億2000万人の消費者に直接働きかけてその「心理」を改善し、財布の紐を緩めるというような政策はありえないから、やはりこの悪循環は「実態」の改善を先行させるほかない。現に「生活不安度指数」は、これまで景気変動に極めて整合的で、先行指標ではなく一致指標として動いてきており、現代の消費者心理が実態経済の変動に極めて鋭敏に反応することを示している。財政政策も金融政策も極めて余力の乏しい中ではあるが、 重点的、戦略的施策によって、景気の底割れ・デフレスパイラルだけは防がなければならない。「構造改革優先」に名を借りて「デフレ対策」をおろそかにすることは許されない。

 「生活不安度指数」でいまひとつ気がかりなのは、90年代後半以降レベルが一段底上げになっていて、景気回復期(平成11、12年)ですら、以前の景気回復期に比べて20〜30ポイント高い(悪い)数値を示していることである。これは、当面の調査で捉えられている循環的要因に加えて、将来うちの会社はどうなる?将来の年金は?医療や老人介護は?我が子の教育は?といった様々の構造的要因に由来する消費者の「将来不安」が、これに重なっていると考えざるを得ない。生活不安度のこの部分こそ、まさしく構造改革を着実に推進することによって対応するほかない。

 小渕内閣が「二兎を追わず」という政治スローガンを掲げて以来、景気対策と構造改革が、恰も二者択一のオールターナティヴであるかのような扱いとなってしまったが、これがそもそも誤りであり、特に現下のデフレ克服と構造改革は一体のパッケージとして追求されなければ、生活不安度を大幅に改善することは出来ないというべきだろう。